改正の概要
2019年(平成31年)4月に施行された労働基準法施行規則により、重要な労働条件の書面等の交付等による明示(労基法15条)について、FAX・メール・SNS等でもできるようになりました(労基法施行規則5条4項)。
ここでは、改正の概要と注意点について説明します。
基本:労働契約の締結に際しての労働条件の明示
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとされています(労基法15条)。
これは、労働条件が不明確なことによる紛争を未然に防止するためです。
明示すべき事項については、書面の交付等により明示しなければならない事項と、口頭の明示でもよい事項があります。
書面の交付等により明示しなければならない事項
以下の事項は、重要な労働条件であるため、書面等の交付等による明示が義務付けられています(労基法15条1項・労基則5条1項・3項)。
- 労働契約の期間(労基則5条1項1号)
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項 (同1号の2)
- 就業の場所および従事すべき業務の内容(同1号の3)
- 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合における就業時転換に関する事項(同2号)
- 賃金(退職手当及び賞与などを除く)の決定、計算、支払の方法、賃金の締切り、支払の時期に関する事項(同3号)
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)(4号)
口頭の明示でもよい事項
以下の事項は、口頭の明示でもよいとされています(労基法15条1項・労基則5条1項・3項)。
なお、昇給に関する事項以外の事項は、これに関する定めをしていない場合は明示しなくてよいとされています(労基則5条1項但書)。
- 昇給に関する事項(労基則5条3項)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払の時期に関する事項(労基則5条1項4号の2)
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与などに関する事項(同5号)
- 労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項(同6号)
- 安全および衛生に関する事項(同7号)
- 職業訓練に関する事項(同8号)
- 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項(同9号)
- 表彰および制裁に関する事項(同10号)
- 休職に関する事項(同11号)
なお、労働契約法は、労働者および使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとすると定めています(同法4条2項)。
ですので、労基法で口頭の明示でもよいとされている事項についても、書面の口頭により明示しなければならない事項と合わせて書面等で明示することが望ましいことは言うまでもありません。
書面等による労働条件の明示の方法
前述した書面等による明示を要する事項については、原則として、書面の交付による明示が必要です。
ただし、2019年4月に施行された改正労基法施行規則により、当該労働者が以下のいずれかの方法によることを希望した場合には、その方法で行うことができるようになりました(労基法施行規則5条4項)。
- ファクシミリを利用してする送信の方法
- 電子メール等、受信者を特定して情報伝達するために用いられる電気通信の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)
「電子メール等」は、 Eメールや、Yahoo!メール、Gmail等のWebメールサービス、 LINEやメッセンジャー等のSNSメッセージ機能 等が含まれるとされています(H30.12.28基発1228第15号)。
これに対し、労働者が開設するブログやホームページへの書き込みによる等、第三者に閲覧させることに付随して第三者が特定個人に情報を伝達することができる機能が提供されるにすぎないものは含まれないとされています(同)。
また、電子メール等による送信の方法を労働者が「希望」した場合については、労基法15条による労働条件明示の趣旨が労働条件が不明確なことによる紛争を未然に防止することにあることに鑑みて、労使双方において、労働者が希望したか否かについて個別に、かつ、明示的に確認することが望ましいとされています(同)。ですので、使用者側が一方的にメール等の送信を行うのでは書面等の明示として認められません。
使用者としては、書面以外の方法で労働条件を明示することについて説明し、労働者の希望を確認することが必要となります。
また、労働条件の明示をめぐる紛争の未然防止等の観点から、メールやSNSで労働条件を明示する場合は、労働条件通知書をメール等に添付して送信する等、印刷や保存がしやすい方法とすることが望ましいとされています(同)。
メール本文に記載するだけでは明示と認められないわけではありませんが、後で「明示されていない」と労働者が言ってきた場合のリスクを考えても、労働条件通知書のpdfをメールに添付するなどした方が無難といえます。
メール等によって労働条件を明示する場合は、これらの点に気を付けて行う必要があります。
パートタイム・有期雇用労働法による明示義務
労働基準法15条は労働者を雇用する場合全般に適用される規定ですが、パートタイム・有期雇用労働法は、パート労働者や有期契約社員(短時間労働者や有期雇用労働者)を雇い入れたときには、労働基準法が定める明示事項のほかに、以下の事項を、書面の交付等の方法により、速やかに明示しなければならないと定めています(パートタイム・有期雇用労働法6条・同法施行規則2条)。
- 昇給の有無(同法施行規則2条1項1号)
- 退職手当の有無(同2号)
- 賞与の有無(同3号)
- 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口(同4号)
これらの事項についても、2019年4月に施行された改正パートタイム・有期雇用労働法施行規則により、労働基準法15条の書面等による明示の場合と同じように、当該労働者が以下のいずれかの方法によることを希望した場合には、FAXその方法で行うことができるようになっています(パートタイム・有期雇用労働法施行規則2条3項)。
- ファクシミリを利用してする送信の方法
- 電子メール等、受信者を特定して情報伝達するために用いられる電気通信の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)